グレブナー基底の展望
RIMS隔週セミナー

本セミナーはRIMS平成28年度プロジェクト研究「グレブナー基底の展望」の一環として、国内、海外から、グレブナー基底とその周辺分野の研究に携わる研究者を招聘し、年間20回(概ね、隔週)開催する。


日程

第15回(1)
日時: 2017年1月31日(火曜)15:00~15:45
講演者: 小山 民雄(神戸大学理学研究科)
タイトル: 多面体領域の正規確率に付随するホロノミック系
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)111号室
要旨: 有限個の不等式系で定義されるユークリッド空間の部分集合を多面体領域といい、 多変量正規分布のの密度関数を多面体領域上で積分したものを 多面体領域の正規確率と呼ぶことにする。 多面体領域の正規確率は、多面体領域を定義する不等式たちの係数を変数とする 関数となるが、この関数が満たす微分方程式系は ホロノミック系という呼ばれるクラスに属する。 多面体領域の正規確率が満たす微分方程式系の導出には、 あるD加群の積分加群を計算するが、その際にグレブナー基底が用いられることを 紹介する。
第15回(2)
日時: 2017年1月31日(火曜)16:15~17:00
講演者: 東谷 章弘(京都産業大学理学部)
タイトル: Ehrhart環のlevel性と$h$-vectorについて
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)111号室
要旨: 本講演は柳川浩二氏との共同研究に基づく。 Cohen-Macaulay次数付き環Rがlevelであるとは、$R$のcanonical moduleの生成系の次数が全て同じであるときにいう。 $R$が標準的次数付き、つまり、次数$1$で生成されているとき、$R$の$h$列が$(h_0,h_1,h_2)$という形をしているならば、 $R$は常にlevelであることが知られている。本講演では、この定理が"半標準的"次数付きの場合へは一般化できないことについて紹介する。 つまり、半標準的次数付きCohen-Macaulay環$R$で$h$列が$(h_0,h_1,h_2)$という形をしているがlevelでないような例について紹介する。 そのような例をEhrhart環と呼ばれる環で構成する。



過去の講演

第1回  
日時: 2016年4月4日(月曜)15:30~16:30
講演者: 土谷 昭善(大阪大学大学院情報科学研究科)
タイトル: Ehrhart多項式及びHilbert多項式の係数に関する符号パターンの分類
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)111号室
要旨: Ehrhart 多項式とは整凸多面体、つまりすべての頂点が格子点であるような凸多面体をn倍に膨らましたものに含まれる格子点の個数を表す関数である。Ehrhart 多項式はnに関する多項式でその次数は付随する整凸多面体の次元と一致することが知られている。先頭係数、つまり最高次の係数が付随する整凸多面体の体積 と一致することから、これはピックの公式の一般化と見ることが出来る。Ehrhart多項式の性質上、先頭係数、第2先頭係数そして定数項は常に正となる が、他の係数は負になる可能性がある。しかし、負の係数を持つEhrhart多項式の例はあまり知られていない。本講演では、どのような係数の符号パター ンであればEhrhart多項式が存在するかということについて紹介する。
また同様の問題を、標準的次数付きk代数に付随するHilbert多項式についても考える。
第2回
日時: 2016年4月25日(月曜)15:00~16:30
講演者: 渋田 敬史 (九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)
タイトル: 単項式写像によるトーリックイデアルの引き戻しについて
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)110号室
要旨: トーリック環や, その定義イデアルであるトーリックイデアルを研究する際に, Veronese部分環, Segre積, toric fiber積, nested配置など, 一つ, またはいくつかのトーリック環にある操作を行い, 新たなトーリック環を構成し, そのトーリックイデアルの性質を調べることがある. 新たに得られたトーリックイデアルは, 単項式写像によるトーリックイデアルの引き戻しであると思うことができる. 元となるトーリックイデアルが良い性質(平方無平方の先頭項イデアルを持つ, 次数の上限がある, など)を持つとき, 新たに得られたトーリックイデアルも同様に良い性質を持つことが期待されるが, 上に挙げたVeronese部分環などの例では確かにそうなっている. 本講演では, なぜそのような事が成立するのか, また, どのような場合に成立するのかを解説する.
第3回
日時: 2016年5月11日(水曜)15:00~16:00
講演者: 中山 洋将 (東海大学理学部数学科)
タイトル: 多変数超幾何微分方程式系のグレブナー基底について
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)402号室
要旨: Gauss 超幾何関数の多変数版であるLauricella 超幾何関数などについて, それらの満たす微分方程式系が知られている. その微分方程式系に対応する微分作用素環のイデアルについて, うまく単項式順序を設定してやると, グレブナー基底が簡単に得られる. このグレブナー基底を使うと, これら微分方程式系の特性多様体や特異点集合を計算することができる. 以上について計算の概略を説明し、時間があれば計算機上での計算についても触れたい.
第4回
日時: 2016年5月27日(金曜)14:30~15:30
講演者: 岡崎 亮太 (福岡教育大学教育学部)
タイトル: 有限生成次数付き加群の次数付き自由分解の構成について
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)110号室
要旨: 有限生成次数付き加群の理論において,次数付き有限自由分解は基本的かつ重要な概念である.一般に,多項式環上であっても,剰余体に対する Koszul 分解や stable 単項式イデアルに対する Eliahou-Kervaire 分解の様な,次数付き有限自由加群の「雛形」を,一般のZ-次数付き加群に対し求めることは困難である様に思われる.  本講演では,多項式環上の任意の有限生成 Z-次数付き加群に適用できる次数付き自由分解の「雛形」について紹介する.この自由分解は有限ではないが,当該有限生成次数付き加群が有限の長さをもつならば有限となる.
第5回
日時: 2016年6月16日(木曜)15:00~16:00
講演者: 陶山大輔(北海道大学国際本部)
タイトル: ψ-グラフ配置とその自由性
場所: 京都大学総合研究2号館478号室
要旨: ψ-グラフ配置は,半順序集合に対して定義されるorder polytopeと, 彩色多項式のある一般化との間の関係を述べるために近年R. P. Stanleyによって導入された超平面配置である. 本講演では,自由超平面配置の観点からψ-グラフ配置の性質について考察する. また,超平面配置の組合せ的な構造から定義される超可解性とψ-グラフ配置の関係についても論じたい.
第6回
日時: 2016年6月27日(月曜)14:30~15:30
講演者: 川畑 泰子(東京大学・情報理工学系研究科)
タイトル: 統計物理学を応用した多変量データの分析の手法の検討
- Web上の投稿にもとづくTV視聴との関連研究-
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)420号室
要旨: 人々の関心というどう測るかわからなものをどう数理モデル化するといった手法を検討する上で, 人間一人一人が考えている事が測定器できれいに測れるのは理想ではある. しかし, それは神経脳科学の分野でおいても難しい課題である. そこで, ここでは逆の発想で人間の関心・意欲をまず, 定量化できると仮定し, 一人一人の関心・意欲をとおく. 添え字iは特定の個人に対応する. 今回はSNSなどの多変量データを基盤とし, その人のその話題に関するソーシャルメディアへの書込数や購買行動などに比例していると仮定する. 統計物理によって, 数理モデルで人々の評判を計算する場合に入力するデータは日々の広告・露出の情報を用いる. この興味・意欲の従う方程式をモデルとして示し, 例えば映画を見ようという意欲を駆り立てる要因として, (a) 宣伝広告の影響, (b) 二者間の影響(c) 3者以上の影響の3つがあると考える. それらについて、購入意欲の時間的な変化を追う微分方程式を立てるという方法で数理モデル化をしき, 検討をした事例を挙げる.

キーワード:ヒット現象の数理
第7回
日時: 2016年7月20日(水曜)15:00~16:00
講演者: McCabe Olsen(University of Kentucky)
タイトル: Euler-Mahonian statistics and descent bases for semigroup algebras
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)006号室
要旨: The Euler-Mahonian identity is a bivariate generalization of the Eulerian polynomial identity using the joint distribution of the descent number and major index over the symmetric group $S_n$. Moreover, there are further generalizations of this identity for colored permutation groups $\mathbb{Z}_r \wr S_n$. In this talk, we discuss a new proof of such identities using quotients of the unit cube semigroup algebra. To do so, we rely on the use of Gröbner basis techniques to derive "descent bases" for these quotient algebras. This talk is based on joint work with Ben Braun.
第8回
日時: 2016年9月27日(火曜)15:00~16:00
講演者: 山田 祐見(筑波大学)
タイトル: ルート系のエルハルト多項式とその零点
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)110号室
要旨: 整凸多面体の格子点の個数に関して,エルハルト多項式という多項式が知られてい る.これは2次元の格子多角形の点の数え上げで面積を求めるピックの公式の高次元 一般化とも考えられるものである.本講演では,エルハルト多項式の導入,そして[R .Bacher,P.De La Harpe and B.Venkov(1999)]で導かれた,ルート格子の部分集合を 凸に包むことによってできる整格子凸多面体のエルハルト多項式をその手法と共に紹 介する.更に,A・C型ルート系におけるエルハルト多項式の根の実部がすべて-1/2に なることの数値実験を紹介する.その他に,エルハルト多項式の係数の満たす合同式 などを紹介する.
第9回
日時: 2016年10月12日(水曜)16:00~17:00
講演者: 蛭子 彰仁(北海道大学理学研究院)
タイトル: 超幾何多項式$F_D$の計算法
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)402号室
要旨: 分割表の解析は, 統計学における重要課題のうちの一つである. このうち分割表の解析において重要な役割を果たす定数(正規化定数等)は, 有限和の$A$-超幾何関数を用いて表されることが知られている. 特に$2\times (n+1)$という特別な二元分割表であれば, 重要な定数は, Lauricellaの$n$変数超幾何多項式$F_D$を用いて表される. このことから, 超幾何多項式$F_D$の値を正確に評価する必要性が出てくる. しかし, これまでの研究結果では, この値を評価するための計算量は$O(n^2)$となっていた. 多変量解析を行う統計においては$n$が大きくなるのは常であり, これまでの計算法で超幾何多項式の値を評価しようとすると, $n$が大きい場合手に負えない計算量となってしまう. そこで講演者は, $O(n)$という計算量で 超幾何多項式$F_D$の値が計算できるアルゴリズムを開発し, さらにそれを Risa/Asir に実装した. このことにより, $2\times (n+1)$という簡単な二元分割表に関してのみであるが, 分割表の重要な定数をより高速に計算出来るようになった. 今回は, このことについてお話したい.
第10回
日時: 2016年10月26日(水曜)16:00--17:00
講演者: 原 和平(早稲田大学)
タイトル: 高々有理特異点のみを持つ代数多様体のルキエ次元について
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)402号室
要旨: Rouquierによって導入された三角圏の次元論は,元来非可換環上の加群の導来圏への応用と共に導入された概念であるが,近年は代数多様体の導来圏やCohen-Macaulay加群の安定圏など,さまざまな分野に現れる三角圏についてこの不変量が研究されている. 非特異な準射影的代数多様体に関しては,その導来圏の次元は多様体のクルル次元と一致すると予想されているが,一方で特異点を許して考えると導来圏の次元はクルル次元より大きくなってしまう場合がある. 本講演では,代数多様体$X$のもつ特異点に制限を設けると導来圏の次元は高々$4\dim X + 1$で抑えれらること,およびそれに付随して得られる特異点圏の次元の上界について紹介する.
第11回 (*)いつもと建物が違います
日時: 2016年11月10日(木曜)15:30--16:30
講演者: 須山 雄介 (大阪市立大学大学院理学研究科)
タイトル: Building sets に伴うトーリック Fano 多様体
場所: (*)京都大学総合研究2号館478号室
要旨: Building set とは有限集合の部分集合族で一定の条件を満たすものである.Building set から非特異射影的トーリック多様体を構成することができ,これは有限単純グラフからトーリック多様体を構成する方法の一般化になっている.本講演では,building set に伴うトーリック多様体が Fano であるための必要十分条件を,もとの building set の言葉で述べる.更に,そのようなトーリック Fano 多様体は,すべて有向グラフに伴う Fano 多面体から得られるということについても解説する.
第12回
日時: 2016年11月21日(月曜)15:00--16:30
講演者: 後藤 良彰(小樽商科大学)
タイトル: A-超幾何級数とその積分表示について
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)111号室
要旨: A-超幾何系は Gelfand-Kapranov-Zelevinsky (GKZ)によって導入された 微分方程式系で, 古典的な超幾何系を含んだ大きなクラスのものである. GKZ は整数行列 A に同次条件を課して議論したが, Adolphson により 一般の A に対しても拡張された(合流型 A-超幾何系と呼ばれる). 合流型 A-超幾何系は形式的に級数解および積分解(指数関数を含む)を 持つことがわかるが, 小原-高山により解空間の基底となる収束級数解が 構成され, 一方で Esterov-竹内により解空間の基底を与える積分領域 (rapid decay cycle)が構成されている. しかし, 収束級数解を表すような cycle がどのようになっているかは, すぐには分からない. 本講演では, A に unimodular 性を仮定した上で, 級数解に対応する cycle が素朴な方法で構成できることを紹介する.
第13回
日時: 2016年12月7日(水曜)15:30~16:30
講演者: 中村 力(岡山大学自然科学研究科)
タイトル: 局所コホモロジーと局所ホモロジー
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)402号室
要旨: 本研究は吉野雄二教授との共同研究である. 局所コホモロジーは,可換環論や代数幾何学だけでなく,代数的組合せ論やD加群の理論,近年ではモジュラー表現論など,多くの分野で共有されている研究テーマである.従来はサポートを局所閉に限るが,Neemanによる可換ネーター環上の導来圏の局所化部分圏の分類や,三角圏の局所化理論から捉え直すと,スペクトラムの任意の部分集合に対してサポートをもつ局所コホモロジー関手が定義可能である.一方で,その双対として現れる関手はGreenlees-Mayなどによって研究されてきた局所ホモロジー,すなわちイデアルによる完備化の左導来関手を,自然に一般化していることがわかる.本講演では,これらの一般化された意味での局所コホモロジーと局所ホモロジーが,導来関手の合成や完全三角による貼り合わせで表せること,およびその諸性質を紹介する.また,時間があれば局所双対定理やGrothendieck型消滅定理を一般化した結果や,平坦加群の研究への応用なども紹介したい.
第14回
日時: 2016年12月20日(火曜)15:00~16:00
講演者: 長岡 高広(京都大学理学研究科)
タイトル: Stanleyのg定理について
場所: 京都大学数理解析研究所(RIMS)110号室
要旨: 1980年にStanleyは単体的凸多面体を各次元の面の数であるf列に関する三条件で特徴づけるMcMullen予想(g定理)という組合せ論の問題の十分性をトーリック多様体の理論を用いて証明した. 証明は,f列と同値な情報であるh列が,対応するトーリック多様体のコホモロジー群の次元と一致する事実に注意することによってポアンカレ双対定理,強レフシェッツ定理,マコーレーの定理から直ちに従うという驚くべきものだった. Stanleyの証明は、組合せ論的対象に多様体を対応させ,代わりにその幾何学を調べることによって組合せ論的な結果を得るという組合せ論的代数幾何の手法の始まりとも言える結果である. 本講演ではStanleyの証明及びそれ以降の一般化の方向性を紹介し,またそれと関連して,あるクラスのトーリック多様体のコホモロジー環は代数的に計算できることを具体的に例を与えて紹介する.

世話人

東谷 章弘(京都産業大学理学部)
小山 民雄(滋賀大学データサイエンス教育研究センター)
土谷 昭善(大阪大学大学院情報科学研究科)



問い合わせ

参加者の方でも、旅費の援助をすることが可能です。 旅費援助を希望する方は
東谷(ahigashi あっとまーく cc.kyoto-su.ac.jp)まで ご連絡ください。


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